あまりにも怖い屁をこく女
私はスウだ。
今日は大学の講義が午前中で終わり、午後はバイトも休みなので、久しぶりに家でゆっくり過ごそうと思い家路についた。
途中で銀行に寄り道したのが良くなかったのか、それとも帰り際にスマホで株価をチェックしたのがいけなかったのか……おそらく両方だろう。
とにかく私は屁がしたかった。
だが家まではあと1時間かかる。
仕方がないからコンビニに立ち寄る事にする。
「お姉さん、いらっしゃいませ」
店員の声を聞きながら雑誌コーナーに向かい、トイレへと向かう。
トイレに入るとまず便座に座り込み、大きく息をつく。
そしてジーンズとパンツを脱ぎ、和式便器にまたがるようにしてしゃがみ込む。
私は今まさに放屁しようとしていた。
だがその時、私のお腹が大きく鳴った。
その音を聞いて思わず笑みを浮かべる。
私はまだ空腹だったのだ。
しかし空腹なら尚更、ここで出すわけにはいかない。
さっきコンビニで買ってきたサンドイッチを食べてからにしよう。
そう思い一旦立ち上がる。
するとまたお腹が鳴る。
これはどうやら相当に切羽詰まっているらしい。仕方なく、再びしゃがみ込み直して排泄を始める。
プゥーッ!ブボォーッ!! 大きな屁が出た。
そしてそれと同時に、肛門の奥の方から固いものが押し出されてくる感覚があった。
(あぁ……もうちょっとなのに)
そんな事を考えているうちにそれは出口付近まで迫ってきていた。
だがもう少しというところで、今度は尻の穴がきゅっと締まり出かかっていたものは奥へと引っ込んでしまった。
(なんなんだよ……くそっ)
焦りを感じながらも必死に踏ん張ってみるものの、中々出てくれない。
それでも諦めずに力を入れ続ける。
するとようやく少しだけ出てきた。
これを逃す手はない。
私は両手をお腹に当てて力を入れた。
ブビィーーーーッ!!!! ブリリリッ!!! 凄まじい音が響き渡ると同時に、肛門が緩むのを感じた。
それを見逃さず、一気に力を込める。
ミチィ……ニチッ……ズリュッ……ヌポンッ!
「うぐぅ……」
思わず声が出るほどの快感と共に、先程とは比べものにならない程の塊が出てきた。
ニュルルルルーッ……ポトン ポトトトトッ……ドサッ!
「ふぅ〜〜」
全てを出し終えると、大きく息を吐いて立ち上がった。
そのままペーパーを巻き取り、手を拭きながらトイレを出る。
そして用を足した後のようにスッキリとした気分で店に戻った。
周りの客が全員こちらを見ている。
きっと私の屁が聞こえていたに違いない。
恥ずかしくなり急いでその場を離れた。
レジに向かうと、店員はいつも通りの笑顔で出迎えてくれた。
何も聞かれなかったのでホッとする。
会計を済ませると逃げるように店を後にした。
外はすっかり暗くなっていた。
アパートまでの道を歩きながら、私は今日の出来事を思い出していた。
あの時、私が出したガスはかなりの量だったと思う。
あんなに大きな音を出して恥ずかしかったし、臭いもかなり臭かったはずだ。
でも屁の音を聞かれていたなんて思いもしなかった。
それがいけなかったんだろう。
しばらく歩いていると後ろから声をかけられた。
「すみません」
振り向くとそこにはスーツ姿の中年女性が立っていた。
「はい?」
何かあったのかと思い返事をする。
「あの……突然こんな事言うの変だと思うんですけど、あなたが出した音……あれってもしかしてうんことおならの音ですか?」
女性は顔を赤らめながら聞いてきた。
一瞬何のことか分からなかったが、すぐに理解した。
そういえばさっき私は大きい方をしたのだ。
ということは当然出るものも出たはずで……。
「え?あっ……はい。そうですけど……」
「やっぱりそうなのね!」
彼女は急に大声で叫んだ。
その声に驚き後ずさる。
「ごめんなさい驚かせて。私、ずっとあなたのこと見てました。それで、あなたがトイレに入っていった時からずっと気になってたんだけど、なかなか出てこなくて……まさかと思ったけど、やっぱりうんこだったのね。さっきのおっきなおならもあなただったんでしょ?」
そこまで言われると否定できない。
確かに私が出たのはうんこだ。だがこの女性にわざわざ教える必要もない。
黙っていると彼女が言葉を続けた。
「ごめんなさい。気持ち悪いわよね。私、こういう者なの。もし良かったら連絡ちょうだい」
そう言って名刺を差し出してきた。
見ると大手企業の名前が書いてある。
とりあえず受け取ると、彼女は満足そうに微笑み立ち去っていった。
部屋に帰り着いた頃にはもう夜になっていた。
シャワーを浴びてから夕食の準備に取りかかる。
今日は何を作ろうかなと考えていると、またお腹が鳴った。
(そうだ、カレーにしよう)
冷蔵庫を開けると、ちょうど昨日作った残りがあった。
1人分くらい残っているので、今夜はこれを食べよう。
材料を取り出し、調理を始める。
野菜を切り、炒める。
肉を入れ、煮込む。
味付けをして完成。
皿に盛り付け、テーブルに運ぶ。
いただきますと言い食べ始める。
食事をしながらテレビをつける。
チャンネルを回しているうちに、ニュースの時間になった。
すると画面には先程もらった名刺と同じ会社名が映し出された。
どうやら先程の女性の勤め先のようだ。
アナウンサーが話し始める。
『本日午後3時頃、都内にある大手企業〇〇株式会社の社員である佐藤さん(35歳)が自宅で倒れているところを発見され病院へ搬送されましたが死亡が確認されました。死因はガス中毒と見られており、警察では詳しい状況を調べています』
私は食べる手を止め、画面を凝視した。
ニュースキャスターの言葉が続く。
『警察は遺体の状況から、何らかのガスを吸って倒れた可能性が高いとして捜査を進めています。次のニュースです……』
私はスプーンを置き、立ち上がった。
そして今日中年女性から貰った名刺を確認した。
(会社名と名前が一致する)
やはり間違いない。
彼女は私の屁を吸って死んだのだ。
つまり間接的に殺したことになるのではないか。
屁で殺せるとかどんな能力なんだ。
そう思うと恐ろしくなってきた。
震える手でスマホを取り出す。
警察に電話しようとしたところで思い留まる。
果たして本当に自分がやったと言えるだろうか。
そもそも証拠がない。
それに仮に言ったとしても信じてもらえないだろう。
下手をすれば精神鑑定をされて終わりだ。
それならばいっそこのまま黙っていた方がいいかもしれない。
そう考え、私はスマホを置いた。
これは完全犯罪だ。
次は誰を殺そうかな。
