勝ちすぎて口座が凍結した話
私はスウだ。
私には恋人のタカシがいるが、タカシは最近金遣いが荒い。
以前はそんなことはなかったのだが、このところやたらと金を欲しがるのだ。
「タカシ、何に使うんだ? 今月の給料貰ったばかりじゃないか」
私がそう聞くと、タカシは言った。
「欲しいものがあるんだよ」
しかし、その答えを私は信じなかった。
なにしろタカシは、無類のギャンブル好きだからだ。
今までもパチンコで勝ったり負けてたりして、その度に私の財布からお金が減っていく。
だから今回も、何か裏があるに違いない。
私はそう思っていた。
ところがある日のこと、タカシから電話があった。
「スウ、悪いけどちょっと金貸してくれないか?」やっぱり……と思いながら、私は聞いてみた。
「いくら必要なんだ?」
するとタカシは、意外なことを言い出した。
「二万円ほどあればいいんだけど」
私は驚いた。
以前なら、十万とか二十万とか言ってきたはずだ。それなのに今回はたったの二万円とは……。
怪しいと思った私は、タカシに問い詰めた。
「どうしたんだ? 一体何を企んでいるんだ?」
するとタカシは笑いながらこう言った。
「何も企んでないよ。ただ俺さ、FXを始めたんだよ。それで資金が必要になったってわけ」
「えふぇくとりぃ?」
聞いたことのない言葉だった。
私は詳しく話を聞いてみることにした。
タカシによると、それは外国為替証拠金取引というらしい。
簡単に言えば、株みたいなものだそうだ。
つまり、ある国の通貨を買って、それを売る。
買う、そして売るという行為を何度も繰り返すことで、差額を稼ぐものなのだそうだ。
難しい用語が多くてよくわからなかったが、要するにお金を増やすということだけは理解できた。
「なるほど、そういうことか……」
そこで私は気付いた。
これはひょっとして、タカシに騙されているんじゃないか? FXというのは、投資の一種で、一攫千金の可能性があるらしい。
うまくいくと、億単位のお金を手にすることもできるのだそうだ。しかし、もし失敗すれば大損してしまうだろう。
私は心配になって聞いてみた。
「大丈夫なのか?」
するとタカシは笑った。
「まぁなんとかね。それよりさ、とりあえず二万円だけ貸してくれないか? すぐ返すから」
私は少し迷ったが、結局了承することにした。
「わかった。じゃあ明日銀行で下ろしてくるよ」
翌日、私は銀行のATMに行って、言われた通り二万円の現金を引き出した。
そしてそのままタカシの家に行くと、それを渡した。
「ほら、これ」
するとタカシはそれを受け取って言った。
「ありがとう、助かるよ」
そして早速パソコンの前に座ると、操作し始めた。
画面にはたくさんの数字やグラフが表示されていた。
タカシはその中の一つを見ながら言った。
「まずは1000ドル(約十二万円)からやってみようかな」
そう言って、クリックした。
すると画面上の金額が増えた。
「おお、増えたぞ!」
タカシは興奮していた。
私も一緒になって喜んだ。
「すごいじゃないか! これで億万長者だな」
しかしタカシは首を横に振った。
「いや、まだだよ。ここからが大変だって言われてるんだ。よし、次は2000ドル(約二十四万円)に挑戦してみるか」
タカシは再びマウスを動かした。
するとまた金額が増えていった。
「いい感じだぞ、このまま一気に……あれ? なんだこりゃ!?」
突然タカシの声色が変わった。
私は驚いて聞いた。
「どうしたんだ?」
するとタカシは焦っていた。
「なんか変なことが起きたんだよ。いきなりマイナスに振り切れちゃって」
「マイナ……えっと、どういうことだ?」
聞き慣れない単語だったので、意味がわからなかった。
私が戸惑っていると、タカシは説明してくれた。
「あーもう、めんどくさいな。わかりやすく言うと、マイナスってことは損をしているんだよ」
「えぇ!?」
私は驚いた。まさかそんなことになるとは思ってもいなかったからだ。
タカシは続けて言った。
「でも大丈夫だよ。すぐに取り返せると思うし」
「本当か?」
「ああ、任せてくれよ」
タカシは自信満々だった。
だがそれからというもの、なかなか思うようにいかなくなったようだ。
最初こそ順調に増えていたものの、途中でどんどん減ってしまった。
そしてついに、0になってしまった。
「あ~あ、ダメだったか……」
タカシはため息をついた。
私は慌てて慰めた。
「気にすることないさ。まだ初めてなんだろう? これから頑張ればきっと上手くいくよ」
しかしタカシは落ち込んだままだった。
「いや、そうじゃないんだ。実は俺、借金があってさ。だからこれ以上は続けられないんだよ……」
「そうなのか? じゃあどうするんだ?」
「仕方がないから、諦めるしかないかな」
私は驚いた。
「おいおい、せっかく成功してたのに、もったいないじゃないか」
「しょうがないだろう。こうなっちゃったんだから」
タカシは開き直っていたが、私は納得できなかった。
「だけどさ、まだ取り返しがつくんじゃないのか?」
「無理だと思うよ。だいたい、俺には才能がなかったみたいだし」
タカシはすっかりやる気をなくしてしまったようで、それ以上何も言わなくなってしまった。
私は考えた。
確かにFXというのはリスクが高いものらしい。
しかし、たったの二万円で大金を稼げるなら、やって損はないはずだ。
「よし、じゃあ今度は私がやってみよう」
私はそう決意した。
タカシにやり方を教えてもらいながら、私は慎重に操作していった。
そして、とうとう目標を達成した。
「やったぞ! うまくいったぞ!」
思わず声が出てしまうほど嬉しかった。
私はタカシに報告した。
「どうだ? 私の実力も中々のものだろう」
ところがタカシの反応は薄かった。
「おめでとう。良かったね……」
「ん? どうかしたか? もっと喜んでもいいんだぞ」
私は不思議に思った。
しかしタカシは、どこか上の空のようだった。
「うん……。まぁいいけど……。それよりさ、もう止めておいた方がいいんじゃないか?」
私は首を傾げた。
「どうしてだ?」
「だってさ、危ないし……」
「大丈夫だよ。ちゃんと勉強したからさ」
「でもさ、絶対失敗するよ。それに、俺はFXで失敗したからこんなことになってるわけで、つまり君まで巻き込む必要はないっていうか」
「何を言ってるんだ? ここまできたら最後までやるよ」
私はそう宣言した。
するとタカシはなぜか悲しそうな顔をした。
「そっか……わかったよ。じゃあ頑張ってくれよ」
「ああ、任せておけ」
そして私は、再びパソコンに向かった。
操作方法を覚えてからは、とてもスムーズに進んだ。
最初のうちは、順調すぎて怖くなるほどだった。
「これはひょっとして、本当に億万長者になれるかもしれないぞ」
そう思っていた矢先、それは起きた。
画面が突然真っ暗になったのだ。
「あれ? なんだこれ?」
私は慌ててマウスを動かしたが、画面は変わらなかった。
しばらくすると、画面上部に文字が現れた。
『システムエラーが発生しました』
私は慌てた。
「ちょっと待ってくれよ。なんなんだよ、これ」
するとさらにメッセージが表示された。
『このページは表示できません。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。こちらからサポートセンターへアクセスして下さい』
私は焦った。
「困ったな……どうしよう」
とりあえず、言われた通りにしてみることにした。
しかし何度試しても繋がらなかった。そこで、タカシに家まで来てもらった。
「タカシ、大変なことになったぞ」
タカシは気怠そうに返事をした。
「ん? なんだよ」
「インターネットがつながらないんだ」
「えぇ!?」
タカシは驚いた様子を見せた。
「マジかよ。そんなはずないんだけどな」
「私もそう思うよ。だから困ってるんだよ」
タカシは少し考えてから言った。
「うーん、よくわからないけど、そういうこともあるかもね。まあいいや、じゃあもう一度電話してみれば?」
「そうだな、もう一度かけてみるよ。ありがとう」
私は早速、携帯電話を取り出し、サポートセンターに電話をかけた。しかし、ここでも接続できなかった。
「おかしいな。どうしてだろう?」
その後も何度か挑戦したが、全て失敗に終わった。
「参ったな……」
私は途方に暮れた。
しかしタカシは冷静だった。
「なんかさ、こういうときは一旦ログアウトすればいいんじゃないの? ほら、ブラウザのとこに書いてあるじゃん」
「え? 本当だ」
私は驚いた。
確かにそこには、『いったん終了しますか?』という選択肢があった。
「すごいじゃないか! 君は天才だよ!」
私は興奮していた。
「それほどでもないよ」
タカシは謙遜していたが、私は気にしなかった。
「さすがは私の彼氏だ」
タカシはとても照れていた。
私は嬉しくなって、思わずタカシを抱きしめてしまった。
そして、二人で一緒に喜んだ。
「おいっ!、これ大損してないか?」
エラー中に為替レートが大きく動いていたのだ。
「くそっ、こんなことになるなんて思わなかったぞ」
私は苛立った。
「早く対処しないとマズイんじゃないのか?」
「わかっているよ。でも、どうしたらいいんだ?」
「とにかく、損切りするしかないだろう」
「だけど、今売ったら大損するんじゃないか? もう少し様子を見てからでも……」
「ダメだって! このままだと損が増える一方だろう!」
タカシは怒った。
しかし、私は引き下がれなかった。
「だけど、せっかくここまで稼いだのに……」
「もう諦めろって!」
「嫌だ!」
私はムキになっていた。
タカシはため息をつくと、諭すように話し始めた。
「あのね、君はまだ若いんだから、これからいくらでも取り返せるんだよ。今は我慢した方がいい」
「でも……」
「いいから、俺に任せておけよ」
タカシは自信ありげだった。
「わかったよ……」
私は渋々納得した。
その後、なんとかリカバリーすることができた。
「助かったよ、ありがとう」
私は素直に感謝した。
「いいよ、別に」
タカシは満足そうに笑っていた。
私はホッとした。
これでまたFXで稼げるはずだ。
「やっぱり、君は頼りになるな」
「まぁ、慣れてるしね」
タカシは得意げに答えた。
私は少し不安になった。
「ところで、FXにはもう手を出さない方が良くないか? 正直、これ以上は危険だと思うんだ」
「うん……。でも、もう止められないよ」
「どうしてそこまで必死になってお金を稼ぐんだ? 君ならもっと他に、色々と方法があると思うけど」
「うーん……。実はさ、私はずっと貧乏だったから、金持ちになりたいんだよ」
「そうなの?」
「ああ、そうだよ」
「わかったよ。頑張ってくれよ」
「ああ、任せておけ」
私はパソコンに向かうと、再び画面に集中した。
それから数日経ったある日のこと。
私はいつものようにパソコンに向かっていた。
「よし、今日も頑張るか」
私は気合を入れた。
その時だった。
突然、画面にメッセージが表示された。
『お客様のアカウントは凍結されました』
「え? どういうことだよ!?」
私は混乱していた。
「どうしよう……どうしよう……」
私はパニックに陥っていた。
するとタカシが家に来た。
「おい、どうしたんだよ」
タカシは心配そうに私を見つめていた。
「タカシ! 助けてくれ! 大変なんだ!」
私は泣きついた。
「落ち着いてくれよ。一体何があったんだ?」
「わかんないよ。急にこうなったんだ」
「えぇ!? それヤバいじゃん」
「だから、困ってるんだよ」
私は半べそをかいていた。
タカシは私を落ち着かせるために、優しく話しかけてきた。
「とりあえず、深呼吸してみようぜ」
「う、うん……」
私は言われた通りにしてみた。
しばらくすると、少しずつ気持ちが落ちついてきた。
「大丈夫か?」
「うん、ありがとう。だいぶ落ち着いたよ」
「それは良かった」
タカシは安心していた。
「それで、結局どうすればいいんだ?」
私は尋ねた。
「まずは状況を整理してみよう」
「わかった」
私はタカシと一緒に考えた。
「えっと、君の口座は凍結されたわけだよね?」
「ああ、そうらしい」
「そのせいで、取引ができないんだな?」
「そうみたいだ」
「原因はなんだろう? 心当たりはあるか?」
「いや、特にはないな……」
「そうか……」
タカシは考え込んでいた。
「ちなみにさ、今までどれくらい稼いだんだっけ?」
「えっと、確か……」
私は記憶を辿った。
「8000万円ぐらいかな?」
「マジで?」
タカシはかなり驚いていた。
「そんなに稼いでたのか?」
「まあ、一応ね」
「すごいじゃん。普通はなかなかできないぞ」
「でも、それが全部パァだ」
「出金もできなくなったのか?」
「うん、そうみたいだ」
「海外口座だしな……」
タカシは難しい顔をしていた。
「どうしよう……」
私は不安に押し潰されそうになっていた。
タカシは冷静だった。
「よし、俺に任せておけよ」
タカシは自信ありげだった。
「わかったよ……」
私は素直に従った。
タカシはパソコンの前に座ると、早速作業を始めた。
そして、ものの数分で完了させた。
「ほら、これで大丈夫だろ?」
タカシは得意気に言った。
「本当だ! 出金できる!」
私は感動した。
「やったー!」
私は飛び上がって喜んだ。
タカシは嬉しそうに笑っていた。
「ありがとう。本当にありがとう」
私は感謝した。
「いいって、別に」
タカシは照れ臭そうに笑っていた。
その後、私はFXをやめることにした。
しかし、タカシのおかげで、なんとか資金を確保することができた。
私たちは一緒に暮らすことにした。
「ねぇ、あなた。大好きよ」
「僕もだよ」
こうして、私たちの幸せな生活が始まった。
