友達の幸せは私の幸せでもある
私はスウだ。友達のマサコと野球観戦に来ている。
今日は東京対大阪戦だ。
「東京が勝つわよ」
と、マサコが言う。私もそう思う。なぜならば東京には私の好きな男がいるからだ。
東京のエースは黒田という投手だ。この男は今年で三十歳になるが、高校球児として甲子園を沸かせた名ピッチャーである。そのピッチングは今でもプロの間で語り継がれているほどのものだ。
彼の投げるストレートは実に素晴らしいもので、それはまるで弾丸のようにバッターの胸元に突き刺さるのだ。
私はそんな彼が好きだった。
そして、彼は昨日完投した。疲れもあるだろうが今日は必ず勝ってくれるはずだ。
いや、きっと勝ってくれることであろう。
なにしろ、私が応援しているんだからね。
「あー、黒田が投げてる! すごいすごい!」
と、マサコが叫んだ。
「ほんとうだ! 黒田くん頑張ってー!!」
と、私は大きな声で言った。
試合は大阪が勝利した。黒田は七回までを投げて二失点であった。
しかし、打線が爆発した大阪が勝利を手にする。
黒田君はまた来てくれるだろうか? と、私は思った。
帰り道に私たちは喫茶店に入った。そこで、コーヒーを飲みながら話をする。
「黒田君かっこよかったよね?」
と、私は言った。
「うん。でも、あんまり顔はよくなかったわ」
と、マサコが言った。
「そうかなあ……」
「まあまあかっこいいって感じよ。ねえ、それよりもさ、私、ちょっと気になる人がいるんだけど」
と、マサコが言った。「えっ!? 誰々? どこの男?」
「うふふ。うちの大学の子なんだ。同じ学部の子。なんかすっごく真面目そうな人でさ。いつも本を読んでるような人なんだよ。でも、なんかね、すごく知的な雰囲気があるっていうのか、そういうのが魅力的に感じるわけ」
「へぇー。どんなふうに魅力的なの?」
「例えばさ、『この本を読むといいですよ』とか言ってさ、本をプレゼントしてくれるようなところだよ」
「それって、普通じゃない?」
「それが違うんだなぁ……なんつーかさ、こう……」
マサコは言いづらそうにして言葉を探しているようだった。
「つまりさ、知的で優しい雰囲気のある男の子ってことかな?」
「ああ、それそれ! そういうのが欲しいわけよ!」
「で、いつ告白するの?」
「ん~……明日くらいにしようかなあって思ってるけど……。どう思う?」
「いいと思うよ。マサコならきっとうまくいくよ!」
「そっか。じゃあ、あたし、頑張っちゃおうかな!」
「うん。頑張って! もし成功したらお祝いしてあげるからね!」
「やったー!」
マサコは嬉しそうに笑った。
次の日になった。マサコは朝早くに大学に行った。彼女は彼氏に会いに行くのだ。
私は講義が始まるまで教室で待っていた。すると、そこに一人の男が入ってきた。
「あれ、スウちゃんじゃん!」
と、その男は言った。彼は同じ学科の同級生だ。名前はコウジという。
「あっ! コウジくん! おはよう!」
私は元気よく挨拶をした。
「おはよう。こんなところで何やってるの?」
「待ってるんだよ」
「誰を?」
「内緒。でも、すぐにわかるよ」
「なになに? もしかして俺を待っててくれたりしないよね?」
「まさか! そんなことないよ!」
「ははは。そりゃそうだ」
「それより、昨日の試合見た? 大阪が勝ったんだけど」
「もちろん見てたぜ! いやー、すごかったなあ。大阪が大爆発だったもんね。あの時は興奮したなあ。やっぱり野球は大阪だね!」
「うん。ほんとうに強かったね」
と、私は言った。
「あ、ごめん。ちょっと電話がかかってきたみたいだから出るね」
私は席を離れて廊下に出た。そして、携帯電話を取り出す。
着信を見るとマサコからのものであった。私は通話ボタンを押す。
「もしもし。どうしたの?」
と、私は言った。
「あ、スウ? 実はね、今日は彼とデートすることになったの!」
と、マサコが言った。
「それでね、今から待ち合わせ場所に行ってくるから!」
「えっ! そうなんだ。良かったね! がんばって!」
「ありがとう。じゃあ、またあとでメールするからね」
「わかったわ。バイバーイ」
私は電話を切ると、自分の教室に戻った。そこにはコウジがいたが、彼はもうどこかに行ってしまったようだ。
それからしばらく時間が経って、講義が始まった。私はノートをとりながら考えていた。
(マサコはうまくいったかな?)
と、私は思った。
私はいつもよりも集中して授業を受けた。そして、休み時間になると私はマサコに電話をかけた。
「もしもし。マサコ?」
と、私は言った。
「はい、もしもし。なあに?」
「うまくいったんでしょ?」
「あ、うん。なんとかね。いろいろと話せたよ」
「そうか。よかったね。本当によかったね!」
「うん。なんか緊張したけど、すごく楽しかったよ。ありがとね!」
「こちらこそおめでとう!」
「うん。じゃあまた後でメールするからね!」
「はいよー」
そこで電話が終わった。私はとても満足していた。
マサコはうまくやったのだ。
それは、私が応援してあげたからだ。
私が応援すれば必ず上手くいくのである。
だって、私は神様なのだから……
私は、私のおかげで幸せになる人たちを見て喜んでいた。
私にはそれが一番大事なことなのであった。
私が応援している限り、みんなが幸せなのであった。
だから、私はいつまでもこの世界にいてあげようと思った。
でも、いつか終わりが来るだろう。
そのとき、私はどうなるのだろうか? まあいいか。その時になればわかることだ。
私はそう思い、これから先もずっと見守り続けることにしたのだった。
