彼氏に嫌われてるのかなと思ってたけど違ったよ
私はスウだ。
大学二年生で、趣味は競馬だ。
最近買った馬がレースに勝ったので、お祝いをするために今日は焼き肉屋に来ていた。
「いやあー、勝ったな! スウが勝つとは思わなかったよ!」
そう言ってビールを飲みながら笑う私に対して、友人であるマサコは不満げだった。
「あんたねえ……。馬の話じゃなくて、私の話をしなさいよ」
「はいはい。マサコさんは、最近どうですか?」
「どうって何よ? まあ、普通だけどね」
「ふーん。普通なんだ」
「……何よそれ? なんか嫌味っぽいわね」
私が言うと、彼女は顔をしかめた。
「そんなことないけどさ。ただ、マサコって美人なのに男がいないから不思議だなって思って」
「別にいいじゃない。男なんて面倒くさいだけよ」
「えぇ~。でも彼氏がいた方が楽しいじゃん」
「確かにそうかもしれないけどさ……」
彼女はそう言いながらも、少し納得できないようだった。
その気持ちはよくわかる。
私は競馬で儲けて、お金ができたらブランドのバッグを買うという目標があるのだが、それはつまりブランド品を身につけたいという欲望の裏返しでもあるのだ。
もちろんそれが全てではないけれど、やはり心のどこかではブランド物に憧れている自分がいる。
そして、それを身に着けると気分が良くなることも知っている。
だから私はいつもより少し良い服を着ていたし、メイクも派手目にしていた。
しかしマサコはそういうタイプではなかった。
化粧っ気はないわ、服にも興味がないわ、おしゃれには無頓着だわで、よくこんなんで生きていけるものだと感心するくらいなのだ。
だが、彼女の方だってモテないわけではない。男友達は多いみたいだし、告白されたこともあるらしい。
ただ、何故か付き合わないのだ。
理由はわからないが、とにかく彼女にとっては恋愛よりも金の方が大事なのだろう。
「ところでスウ。あんた、あの男とはどうなったのよ?」
「あの男?」
「ほら、例の……なんだっけ? なんとかっていう名前忘れちゃったんだけど……」
「ああ、タカシのことか」
タカシというのは大学の同期で、同じサークルに所属している男だった。
彼はとても優しくて紳士的で素敵な男性だと思う。
しかしどういうわけか、私に対してはつれない態度を取ることが多かった。
「あいつさぁ。私に全然モーションかけてこないんだよねぇ。他の女の子たちには結構優しいみたいなのにさ」
「へぇー。そうなんだ」
「うん。なんでだろ? やっぱり私のことが嫌いなのかなぁ?」
「どうかしらね? そんなことないと思うよ」
「うーん……。そうだといいんだけどさ……」
私は焼き肉を食べながら言った。
すると彼女は急に真面目な顔になった。
「ねえ。あんたってさ、本当にタカシのことを好きなの?」
「えっ?……そりゃ好きだよ。当たり前じゃん」
「でもさ……。私から見ると、ちょっと違う気がするんだよね。本当は好きじゃなくて、ただ単に付き合いたいだけでしょ?」
「……」
マサコの言葉に私はドキリとした。
まるで自分の本心をズバリと言い当てられたような感じだったからだ。
「そっか……。やっぱり図星だね」
「……どうしてわかったの?」
「わかるよ。だってさ、ずっと見てきたもの。あんたがタカシを誘っても断られてるところをね」
「……」
「それにさ。前に聞いた話だと、あんたたちって一年前から知り合いだったんでしょう? それなのに今まで進展しなかったなんておかしいもんね」
「…………」
「それでさ。あんたはどうしたいの? このままでいいと思ってるの?」
「……思ってない」
「じゃあさ。今度こそちゃんとアプローチしてみたら? きっとうまくいくよ」
「でもさ。どうやって?」
私がそう言うと、マサコはニッコリと笑った。
「それは自分で考えなさい。あとはスウ次第だよ」
「……」
彼女はそう言うと、店員を呼んだ。
そして追加注文をする。
「すみませーん! この特上カルビ三人前と生中二つお願いしまーす!」
「えっ? まだ食うの?」
「当然じゃない。今日はお祝いなんだから、たくさん食べないとダメでしょう?」
彼女は得意げに言うと、またビールを飲み始めた。
その姿を見て、私は思わず苦笑いを浮かべてしまった。
「あーあ。マサコはすごいなぁ……」
私がそう言うと、彼女はこちらを見た。
「ねえ、スウ。もし失敗したら、その時は私が慰めてあげるからさ」
「……ありがと」
マサコの優しさに感謝しながら、私も焼き肉を食べることにした。
次の日、大学の授業が終わった私は、いつものように一人で帰ろうとしていた。
ところが校門のところまで来た時、いきなり後ろから声をかけられた。
「おい。待ってくれよ!」
振り返ると、そこにはタカシの姿があった。
「えっ? タカシじゃん。どうしたの?」
「いや、お前を待ってたんだよ」
「私を? なんで?」
「なんでって……。そんなの決まってるじゃないか」
彼は少し照れ臭そうにしながらも、はっきりとこう言った。
「俺と一緒に帰ってくれないか?」
その言葉を聞いた瞬間、私の胸は高鳴った。
まさか彼が自分から誘ってくるとは思わなかったのだ。
「……もちろんOKよ」
私は笑顔で答えると、彼の横に並んだ。
するとタカシはホッとしたように息をつく。
「よかった。断られたらどうしようかと思ったぜ」
「断るわけないじゃない。だって私たち、恋人同士なんだし……」
「まあ、確かにそうなんだけどさ……」
タカシはまだ少し不安が残っているようだった。
だから私は彼に微笑みかける。
「大丈夫だってば。心配しないで」
「ああ、そうだな」
私たちは一緒に歩き出した。
しばらく無言の時間が続く。
しかし気まずくはなかった。むしろ心地よい沈黙だった。
やがて駅が見えてきたところで、タカシが口を開いた。
「ところでさ。俺たち、いつになったら付き合うことになるんだろうな?」
「……」
「正直、俺はもう待ちきれないんだよ」
「えっ? それってどういう意味?」
「つまりさ。今の曖昧な関係じゃなくて、もっとハッキリとした形になりたいっていうか……。要するに、俺と結婚してくれないか?」
「……はい。喜んで」
こうして私はタカシは結婚した。
結婚式では友人たちに祝福された。
特にマサコはとても感動してくれたようで、泣きながら何度もおめでとうと言ってくれた。
そんな彼女の姿にもらい泣きしている人もいたくらいだ。
披露宴が終わると、私はマサコに話しかけた。
「ありがとうね。あなたのおかげで幸せになれたわ」
「何言ってんのよ。私は何もしてないよ。全部あんたの力じゃん」
「でもさ。あの時、背中を押してくれたのはマサコだし……」
「はい、ストップ! そういう話は無しにしましょう。だって私、こういう湿っぽい雰囲気って苦手なのよねぇ……」
「ごめん。そうだったよね」
私は慌てて謝った。
しかしマサコは全く気にしていない様子だった。
「いいっていいって。それよりさ……。これから二人でどこか遊びに行かない?」
「うん、いいよ」
「やった。じゃあ行こうよ」
「どこに行く?」
「そうね……。じゃあカラオケでも行く?」
「オッケー。じゃあ行きますか」
「うん!」
マサコは嬉しそうに笑うと、私の手を引っ張って走り出す。
私はそれについていった。
