私は騙されないぞ!
私はスウだ。
大学二年生で、今年は就活をする予定なのだが、まだどうするか決めていない。
そんな私が最近ハマっているのは、株式投資である。
一攫千金を夢見て始めたのだけれど、これがなかなか難しい。最初は本当に簡単だったんだ。
だって、ニュースや新聞を見てれば、どの会社が儲かっているのかなんてすぐに分かるし、そこを買っておけばいいだけなんだから。
でもね、ある時気がついたんだよ。
あぁ、これはダメなパターンだと。
それはね……。
「……」
私は黙ってテレビに視線を向ける。
そこでは、アナウンサーと評論家が討論していた。
『つまり、この会社はここ数年ずっと赤字経営が続いているわけですよね』
『そうですね。しかも、その赤字分を補填するために借金をして、それがまた会社を圧迫しているのですよね』
『はい。ですから、ここはもう見限るしかありませんよ』
そこで画面が切り替わる。
そして、別の会社の社長のインタビューが始まった。
『えぇ、当社も先月でとうとう倒産しました』
『それで、これからどうされるんですか?』
『はい。私どもは負債を抱えてまして、まずはそれを返済しなければなりません』
『なるほど……大変でしょうけど頑張ってください』
再び画面に映ったアナウンサーの顔には、「お疲れ様」と書かれているようであった。
私は静かにテレビの電源を切る。
「ふぅ……」
私はため息をつく。
どうしてこうなった? 私はちゃんと勉強したはずだぞ。
なのに、どうしてこんなにもうまくいかないんだろう。
株式投資というのは、確かに運の要素もあるだろう。しかし、それと同じくらい知識がものを言う世界でもあると思うのだ。
だから、情報を集めて分析して、それから買うべき銘柄を決めて、実際に買い始めるところまで行ければ、後はもう勝ち続けるだけだと思っていたのだが……。
「やっぱり、何か間違っているんじゃないだろうか?」
私は考える。
今までの失敗を振り返るのだ。
そうだ! きっと、あれに違いない!!
私は机の上に置いてあるノートパソコンを開き、インターネットに接続する。そして、検索窓に文字を打ち込んだ。
「初心者 株式投資」
すると、ずらっと出てくるサイトの数々。
それらの情報を精査していく。
そして分かったことは、やはり私は間違っていたということだけであった。
「これではいけない!」
私は決意する。
今度こそは成功させるんだと。
だが、何がいけなかったのだろうか? 私はパソコンの前で腕を組む。
しばらく考えてみたが答えが出なかったので、とりあえずネットサーフィンをすることに決めた。
株価のチェックや情報収集は大事だけれど、たまには息抜きが必要だと思ったからだ。
それに、こういう時にネットをしていると、思わぬ情報が入ってくることもあるしね。
さーて、どんな面白い記事があるかな〜♪
そう思ってページを開いた時だった。
「ん?」
一つの広告が目に入る。
そこにはこう書かれていた。
【誰でもできる簡単株取引】
なにこれ? こんなの見たことないんだけど。
まぁ、いいや。ちょっと読んでみようかな。
興味本位でクリックしてみると、画面が変わった。
「うわっ!?」
突然現れた女の子のイラストに驚く。
しかも、そのイラストはかなり可愛かった。まるでアイドルのような容姿なのだ。
こんな可愛い子が株取引なんか出来るのかしら? いやいや、そもそもどこで売っているのよ。そんな商品。
疑問を抱きつつも、次の文章を読むことにした。
【あなたでも簡単に稼げる!】
そう書かれていて、その下には数字がいくつか並んでいた。
その数字は「9万3800円」となっていた。……うん、これはアレだね。
間違いなくアレだよ。いわゆる情報商材とかいうヤツだよね。
私はブラウザバックしようとしたのだが……。
【たった1分で5万円を稼ぎ出す方法を教えます!】
という文字が目に入り、ついクリックしてしまった。
すると画面が再び変わり、今度は動画が現れた。
「こ、これは……」
そこに映っていたのは、どこかの部屋の中でインタビューを受けている男の姿だった。
彼は笑顔を浮かべながら話している。
『えぇ、この方法は簡単なんですよ』
『ほう、そうなんですか?』
『はい。まず、この資料を見てください』
男は手に持つ紙をカメラに向ける。
『これは?』
『この会社の株式売買に関するデータです』
『なるほど』
『これを見れば分かりますが、この会社はここ数年ずっと赤字経営なんです』
『えぇ、そうですね』
『しかも、借金をしてそれを返済するために更なる赤字を生み出しているんです』
『はい』
『この会社はもうダメですね』
『……』
『倒産するのは時間の問題です』
『……』
『というわけで、この会社はもう終わりです』
『え?』
『なので、この会社を買いましょう』
『えぇぇぇぇ!!』
そこで映像が止まる。
そして、最後にテロップが流れてきた。
『これが本当の勝ち組になれる唯一の道です!』
私はゆっくりと画面を閉じる。
…………。
ふぅ。
危なかった。危うく騙されるところだったよ。
だって、あまりにも話がうますぎるもん。
どうせ詐欺でしょ。
私は騙されないからね。
しかし、気になる点があった。それは最後の部分。
「倒産するのが分かっていて、それでも買うなんておかしいよね?」
普通なら倒産する前に損切りをするはずなのに、あえて倒産してから買うなんて絶対にありえない。
もし、本当に倒産したら、とんでもない損失を被ることになるんだもの。
つまり、この人は嘘をついているってことだ。……だけど、一体なぜ? お金儲けしたいだけなのかな? ……まぁ、そこは深く考えないようにしよう。
とにかく、私には関係ないことだし。
「よし、気分転換も出来たし、そろそろ株価チェックを再開するか!」
私はパソコンに向かう。
そして、再び株価の確認を始めた。
「ふむふむ、やっぱり今日はあまり上がっていないみたいね」
私はため息をつく。
「やっぱり、なかなか上手くいかないものだわ」
いくら株式投資の勉強をしたところで、実践できなければ意味がないのだ。
私は机の上に転がっているサイコロを見る。
「うぅぅ……」
サイコロを手に取り、ぎゅっと握り締めた。
そして、願った。
どうか、もう一度チャンスが欲しいと。
すると、その時だった。
「ん?」
私は首を傾げる。
握っていたはずのサイコロが無くなっていたからだ。
どこに行ったのだろうと探すと、いつの間にか足元に転がっていた。
あぁ、良かった。
私は安堵する。
「さてさて、次は何を買おうかしらね〜」
そう呟きながら、サイコロを振る。
出た目は6であった。
「あら、良い目を出ちゃったわね」
思わず笑みがこぼれてしまう。
「それじゃ、買いますかね〜♪」
私は株取引のサイトを開くと、ある銘柄を選び購入ボタンを押した。
「さてと、これで今日の取引は終了と……」
パソコンの電源を落とす。
そして、椅子にもたれかかった。
「はぁぁぁぁぁ」
大きく息を吐き出す。
「今回はかなり頑張ったんじゃない?」
自分なりに精一杯やったと思う。
だからこそ、結果が出るまでドキドキだった。
それにしても、本当に疲れたわ……。
今度からはもう少し楽な方法でやろうかな。例えばデイトレードとか。
まぁ、でも、とりあえず今はゆっくり休みたいかも。
それに、お腹空いたし……。
時計を見ると、すでに夜の7時を過ぎていた。
「んー、何か食べようかな」
でも、作るの面倒くさいし、外食でいいか。
そう思い、財布を持って部屋を出る。
「んー、何を食べようかしらね」
近くのファミレスに向かって歩いている途中、私は考える。
「こういう時はラーメンとか食べたくなるんだけど、太っちゃうから我慢しないとね」
ダイエット中なのだ。
最近は体重が少し増えてきている。
だから、食事はちゃんと考えないといけない。
「そうだ! 最近できたケーキ屋さんに行ってみよう!」
確か、駅前の方に新しくオープンしたはずだ。
「うん! そこに決定!!」
目的地を変更し、私は駅へと向かった。
そして、目的の店に到着。
店内に入ると、甘い香りが漂ってきた。
その匂いだけで幸せな気持ちになる。
席に着くとメニュー表を開いた。
「どれにしよっかなぁ〜」
どれも美味しそうで迷ってしまう。
だが、すぐに注文するものが決まった。
「すみませ~ん!」
店員を呼び、注文をする。
「えぇ、ショートケーキ1つお願いします!」
しばらくして、頼んだ品が届いた。
フォークで一口サイズに切り分け、それを口に運ぶ。
「うぅぅ〜♡」
甘くておいしいぃ〜!! 幸せだわぁ〜!!!
「はっ!?」
いけない、ダイエット中なのについつい夢中になっちゃった。
私は気を取り直してケーキを食べる。
「……ふぅ」
あっという間に完食してしまった。
「おいしかったぁ〜」
また来ようっと。
私は会計を済ませると、店を後にした。
「ふぅ、満足、満腹、大満足よ」
お腹をさすりながら、家路につく。
「ちょっと食い過ぎたかもしれないけど、大丈夫よね?」
まぁ、明日も運動すれば問題ないか。
そんなことを考えているうちに、自宅へと到着した。
「ただいまぁ〜」
玄関で靴を脱ぐ。
そして、リビングの方に向かった。
「……あれ? お母さん、いないの?」
いつもなら出迎えてくれるはずなのに、今日はそれが無かった。
どうしたんだろ? 不思議に思っていると、テーブルの上に置き手紙があることに気づく。
「ん? なんだろ?」
私はそれを手に取り、読んでみた。そこにはこんなことが書かれていた。
『ごめんなさい。急な仕事が入ったので出かけてきます』
なるほど、そういうことか。
「仕方ないわね」
まぁ、たまには一人でゆっくり過ごすのもいいだろう。
私はソファーに座ると、テレビをつけた。
「ふぅ」
リモコンを置くと、背伸びする。
「あぁ、疲れたぁ」
今日は一日ずっとパソコンと睨めっこしていたせいだろうか。
すごく眠くなってきた。
「よし、もう寝ちゃおうかしら」
夜更かしするのは良くないし。
というわけで、歯磨きをしてベッドに入った。
「おやすみなさぁい……」
電気を消す。
そして、眠りについた。
