ストーカーされました

私はスーパーのレジ打ちのバイトをしているスウだ。
昨日は朝から夕方まで働いて疲れたけど、その分給料も良かったし満足している。
そして今日もバイトだ。
「おはようございます」
店長はいつも通り不機嫌そうに挨拶を返してきた。
この人はいつも不機嫌そうな顔で仕事をしていて疲れないのかと思うが、私には関係ないので黙って仕事をするだけだ。
しかし今日の店長はいつもと様子が違った。
どこかソワソワした様子だったのだ。
何かあったのだろうか? そんな事を考えながら仕事をこなしていくと、やがてお客さんが増えてきた。
「いらっしゃいませー!」
私が元気良く挨拶すると、一人の男が店内に入って来た。
男はチラリとこちらを見て小さく会釈をした。
男はそのまま真っ直ぐレジに向かってきたので、私は笑顔で接客を始めた。
「いらっしゃいませ! 本日のオススメ商品はいかがでしょうか?」
「……ああ、それじゃあそれで頼むよ」
「ありがとうございまーす!」
私はテキパキと袋詰めをして会計を済ませた。
それから男はまた小さく頭を下げて店を出ていった。
何なんだあの人? 初めて見る人だったな……。
不思議に思いながらも、私は次のお客さんの応対に向かった。
「ふうっ……これで最後か」
閉店間際になって最後の一人のお客さんの会計を終えたところで、ようやく一段落ついた。
「お疲れ様です」
店を出る前に店長に声をかけると、彼は少し驚いたような顔をして振り返った。
「ん、ああ、お疲れさん……」
「どうかしましたか?」
「え!? いや別にどうもしねえよ!」
明らかに挙動不審だったが、深く追求する必要も無いと思いそのまま帰ることにした。
帰り道の途中にある公園に差し掛かった時、突然後ろから声をかけられた。
「ちょっといいかい?」
驚いて振り向くと、そこには先程の男の人が立っていた。
「えっと……なんですか?」
警戒しながら答えると、男はニコリと笑って言った。
「君、僕の彼女にならないかい?」
…………はぁ? この人は何を言っているんだろう。
初対面の女を捕まえていきなり告白とかありえないだろう。
そもそも私はこんな人のことなんて知らないぞ。
きっとこれは悪質なナンパに違いない。
「すみませんが、そういう冗談は好きじゃないんで」
「冗談なんかじゃないさ。僕は真剣だよ」
そう言うと、男は私の手を握ってきた。
「ちょ、放してください!」
慌てて手を引こうとするが、相手の方が力が強く引き剥がせない。
一体どういうつもりなのか分からないが、とにかくこのままではまずいと思った私は全力で抵抗することにした。
「こっち来ないでください! 警察呼びますよ!!」
精一杯の声で叫ぶと、男はビクリとして私の手を離した。
その隙を突いて、私は急いでその場を離れた。
危なかった……。
もう少し遅かったら連れて行かれるところだったかもしれない。
しかし、これからもこういう事があるなら何とかしないとな……。
家に帰ってからもずっと考えていたのだが、なかなか良い案が浮かんでこない。
やはり警察に通報するのが一番確実だと思うけど、あの男の顔を見たら怖くて出来ないんだよな……。
はあっ……やっぱり明日バイト休みにして貰おうかな。
翌日、結局いつも通りの時間に起きてしまったので仕方なく支度をしていた。
すると、外から大きな音が聞こえてきた。
「なんだ?」
窓の外を見ると、トラックが店の駐車場に入ってきていた。
そして、その荷台からは大量の荷物が降ろされていた。
「引っ越し業者か……?」
私は気になって様子を見に行くことにした。
玄関を出てすぐに、昨日会った男の姿があった。
「あ!君は昨日の……」
向こうもこちらに気付いたようだ。
しかし、ここで逃げるわけにもいかないので話しかける事にした。
「あの、ここに何か用事でもあるんですか?」
「ああ、実は僕引っ越すことになったんだけど、ちょうど空き部屋があってね。それでここに住もうと思って来たんだ」
「へぇ、そうなんですか」
引っ越してきたばかりなのにあんな事言ってきたのか……この人大丈夫だろうか?
「それで……君さえ良ければ一緒に暮らさないかい?」
「嫌です」
即答すると、男はショックを受けた様子だった。
「そ、そんなにはっきり言わなくてもいいじゃないか」
「だって、あなたみたいな怪しい人とは暮らしたくないですよ」
正直に話すと、男はガックリと肩を落とした。
「うぅ、酷いよぉ」
そんな風に言われても困るだけなのだが……。
しかし、この人本当に引っ越してきたばっかりなのか? あまりにも荷造りが雑すぎる気がする。
「あの、ところで引っ越して来たばかりでお金が無いって言ってましたよね? どこに住んでたんですか?」
「あぁ、それは隣の街だったよ」
「えっ!? 隣町ってここからかなり遠いじゃないですか!」
確か、電車でも1時間くらいかかるはずだ。
どうしてわざわざそんな遠くから来たのだろうか? まさか私に会うためだけにここまで来た訳じゃ無いだろうし……。
「なあ、君」
男が急に真面目な顔になった。
「な、なんでしょう……?」
「君のことが好きなんだ。だから付き合ってくれ」……この人バカなんじゃないかしら?
「いい加減にしてもらえませんか?」
「いや、本当なんだ。信じてくれよ」
「信じられませんよ。だいたい、何を根拠に私があなたのことを好きだと言うんですか? 初対面の男に告白されて信じる女がいると思いますか?」
私がキッパリ言い切ると、男は少し考える素振りを見せた後、口を開いた。
「根拠かぁ……強いて言えば、一目惚れかな」……ふざけているんだろうか。
「とにかく、私はあなたとは付き合いたくありません。それでは失礼します」
これ以上話しても無駄だと判断した私は、足早に立ち去った。
「待ってくれよ! せめて連絡先だけでも教えておくれよ!」
後ろから男の叫び声が聞こえたが、無視して家に戻った。
「はあっ……」
部屋に着いてから、大きく息を吐いた。
あの男、一体なんだったんだろう……。
それから数日経ったある日のこと。
今日は仕事帰りにスーパーによって買い物を済ませた。
いつものようにレジを済ませて外に出ると、見覚えのある姿が目に入った。
「あ、君」
例のストーカー男だった。
「……どうも」
一応挨拶をしてみたが、男は嬉しそうに近づいてきた。
「こんな所で会うなんて奇遇だね」
「そうですね……」
「そうだ! せっかくだし、どこか遊びに行こうよ!」
「いえ、遠慮しときます」
断っても全くめげないようだ。
「ねぇ、お願いだよ。ちょっとだけで良いんだ」
「すみませんが、急いでいるんで」
「そこをなんとか! ちょっとで良いんだ! ほんのちょっとで良いんだよ!!」
必死で食い下がる姿に思わずドン引きしてしまった。
この人、本気で気持ち悪いな……。
私は意地でも付いて行かないことに決め、その場を離れた。
すると、追いかけてきた男に腕を引っ張られた。
「放してください!」
「頼むよ。少しだけだからさ」
しつこく迫ってくる男に恐怖を感じた私は、思い切り手を振りほどこうとした。
しかし、男の力が強く振り払えない。
「や、止めてください……誰か助けて……ッ」
泣きながら叫ぶと、通行人の男性が駆け寄ってきてくれた。
「おい、その子嫌がっているぞ。離してやったらどうなんだ?」
男性は険しい表情で詰め寄るが、それでもなお男は諦めようとしなかった。
「嫌がってなんかいないよ。なあ、君も僕と一緒に行きたいだろう?」
その言葉を聞いて、私はゾッとした。
この人、狂ってる!
「行きたくないです!」
私は男性の後ろに隠れるようにしながら叫んだ。
すると、ようやく男は私の手を解放した。
「チッ、仕方ない。また今度誘うことにするよ」
それだけ言うと、男は立ち去って行った。
「大丈夫かい?」
「はい、ありがとうございました」
お礼を言うと、彼はニコッと笑って言った。
「君、僕の彼女にならないかい?」
「はい……はい?」
聞き間違いだろうか?
「あの、今なんと?」
「君のことが気に入ったんだ。僕の恋人になって欲しい」
やっぱり聞き間違えではなかったらしい。
しかし、なぜ私みたいな地味な女に……。
「あの、どうして私なんですか? 他にも可愛い人は沢山いますよ?」
「僕は君が良いと思ったから選んだだけだよ。他の誰でも無い、君が好きなんだよ」
「そんなこと急に言われても困りますよ」
「別に困ることは無いと思うけどなぁ」
「困りますよ!」
「まあ、無理強いするつもりはないよ。ただ、頭の片隅には置いておいてね」
それだけ言って、男は去っていった。…………どうしよう。
家に帰ってからも、ずっと考え込んでいた。
恋人ってどういう事なんだろう? キスとかするのかな?
想像するだけで顔が熱くなってきた。
そもそも私はまだ彼のことをよく知らないのだ。
それなのにいきなり告白されたところで、すぐに答えが出るはずもない。
それに、まだ会って間もないというのに告白されるというのもおかしな話である。……よし、決めた。
あの人にもう一度会った時に返事をすることにしよう。
それから数日後、再びストーカー男に遭遇した。
相変わらずしつこい。
「君も懲りないねぇ」
「あなたこそ、どうしてそこまでして付き纏うんですか?」
「それはもちろん君のことが好きだからさ」
「……どうして好きになったんですか?」
「それは……一目惚れかな」
「そうですか。じゃあ、私はこれで失礼します」
これ以上話しても時間の無駄だと判断した私は、足早に立ち去った。
「待ってくれよ!」
男は大声で呼び止めたが、私は振り返らなかった。
そして、更に数日が経ち、ストーカー男は引っ越していった。
ようやく諦めてくれたようだ。
それからというもの、私は平穏な日々を過ごしている。

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