父の企み

私はスウ、デイトレーダーだ。とはいっても、まだ学生の身なので、小遣い稼ぎ程度だが。
その日は珍しく仕事が早く終わったので、いつもより早い時間に家に帰った。
玄関を開けると、リビングから物音が聞こえた。
誰かいるようだ。そっと扉を開けて中の様子を窺うと、そこにいたのは私の父だった。
父はキッチンに立ち、料理をしているようだった。
「ただいま」
私がそう言うと、父はこちらを振り向かずに言った。
「おかえり。今日は早かったんだな」
「まあね。それより、なんで父さんがいるの?」
父は普段、会社勤めで忙しくしているはずだ。こんな時間に家にいることなんて滅多にない。
「ああ……ちょっとな」
父は少し言い淀んでいる様子だったが、やがて決心したように口を開いた。
「実は母さんの体調が悪くなってしまってな……」
父の話では、母は最近体調を崩しがちだったという。そしてとうとう入院することになってしまったそうだ。
「それで、お前も学校があるだろう?だからしばらく私の家で暮らさないかと思ってな」
私は驚いた。父がそんなことを考えていたなんて思いもしなかったからだ。
確かに私は今年高校に入学したばかりで、一人暮らしをするには心許なかった。しかしまさかそれが理由で父と暮らすことになるとは……。
でもこれは良い機会かもしれないと思った。というのも、私は父のことがあまり好きではなかったのだ。というより嫌いに近い感情を抱いていた。理由は単純明快で、父の仕事に対する態度である。父は仕事に対して真面目過ぎるくらい真剣なのだ。それはとても素晴らしいことだと思う。
しかし、あまりにも仕事一筋過ぎて家庭のことを顧みないことが多々あった。休日は寝ていることが多く、一緒にどこかへ出掛けたりすることも殆ど無い。たまに出かけたとしても、まるで会社の人間といるような感覚に陥ってしまう。
だから正直言って息苦しさを感じていた。
そんな生活を続けるぐらいなら、いっそのこと離れて暮らした方が楽になれるのではないかと思っていた。
だけど、実際に離れてみるとやはり寂しいもので、こうして久しぶりに会うと安心感を覚える自分がいた。それに父は、私のことをちゃんと考えて行動してくれたことも嬉しかった。だから、この提案を受け入れることにした。
それから一週間ほど経ったある日のこと。
私と父は夕食を食べながら話をしていた。
「学校はどうだ?友達はできたのか?」
「うん。何人か出来たよ。みんないい子達ばかりだよ」
「そうか、良かったな。何か困ったことがあったら相談するんだぞ」
「わかってるよ。父さんこそ、仕事頑張ってるみたいじゃん」
「当たり前だ。頑張らないと会社が潰れてしまうからな」
「……父さんはもう少し肩の力を抜いてもいいと思うけどね」
「……何を言うんだ。まだまだ足りないくらいだ」
その後も他愛のない会話が続いた。
私は久々に家族らしい時間を過ごすことができて幸せだった。
これからの生活が楽しみだ。
私は心の中でそう思っていた。
しかし、この時の私は知らなかった。父が借金だらけになっていることを。

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