お得な買い物をした話
私はスウ、銀行員だ。
今年の四月から、この支店に勤めている。
私は、二十一歳という年齢で銀行に就職した。大学を卒業してすぐに働くのは大変だったけれど、今はもう慣れた。それに、仕事にはやりがいを感じている。
今日も、朝から銀行の窓口に座って、仕事をしているふりをしている。実際には、何もしていないんだけどね。
だって私の仕事って、お客さんがお金を下ろすときに、「残高不足です」とか「キャッシュカードを忘れていますよ」なんて言うことだけだもの。あぁ、あと、たまにお客さんの通帳記入や印鑑照合くらいかな。本当はもっと大きな仕事がしたいけど、それは無理みたい。私が配属されたのは、いわゆる窓際部署っていうところだから。
その証拠にほら、今も私の目の前では、支店長と先輩行員たちが難しい顔をして話し合っているじゃない。
「……しかし、本当に大丈夫なんですか?」
「えぇ、間違いありません」
支店長が自信たっぷりな顔で言うと、先輩たちは渋々といった様子でうなずいた。どうやら話はまとまったようだ。
「わかりました。じゃあ、それでお願いします」
「はい。ご利用ありがとうございます」
先輩たちが帰って行くのを見送っていると、支店長に声をかけられた。
「おい、スウ君」
「はい」
「ちょっと来てくれ」
支店長についていくと、応接室に通された。中には一人の男性が待っていた。彼は、とても疲れたような表情をしていた。きっと、毎日残業ばかりさせられて、ストレスが溜まっているんだろうなと思った。
「こちらが、融資担当のタロウさんだ」
「初めまして、タロウと言います」
「初めまして、スウです」
お互いに自己紹介を終えると、早速本題に入った。
「実はいい投資話がありまして」
「投資話? 株か何かですか?」
「いえ、違います。不動産投資の話です」
「なるほど」
私は、内心ため息をついた。また始まった。
「実は、最近あるマンションを購入したんです。それで、入居者を募集しているのですが誰も入居しなくて……」
「はい」
「家賃収入が見込めるんですよ。しかも、空室になったとしても毎月一定の額が入る仕組みになっています。このマンションを購入しませんか?」
「でも……誰も入居してないんですよね?」
そう聞くと、支店長が答えてくれた。
「確かにまだ入居者はゼロだが、そのうち誰か入るだろう。購入してくれないか? 金利なら優遇するぞ」
「もしかしてすごいお得?」
「そうだ。他の銀行と比べたら、だいぶ違うはずだ。まぁ、それでも買わないというのであれば仕方ないが……」
その言葉を聞いた瞬間、私は迷わず即答していた。
「買います!」
「よし! 契約成立だ!」
こうして、私はローン地獄の大家になってしまったのだ。
