立命館大学総長が担う「学び」と「未来」の接続戦略

立命館大学の総長は、単なる管理者としてではなく、大学が進むべき方向性を示し、その方向へ組織全体を動かす役割を担う存在だと言える。特に注目したいのは、総長が大学の“学びの中身”と“未来の社会”を、どのような発想と仕組みで結びつけようとしているのかという点である。大学教育は、カリキュラムや授業の設計だけで完結するわけではなく、研究の姿勢、学生支援、国際化、地域連携、ガバナンスの運用といった複数の要素が同じ方向に揃って初めて強い推進力を生む。そのため総長には、大学内外の多様な関係者の利害や期待を見渡しながら、長期の視点で全体を束ねる統合的なリーダーシップが求められる。ここでは「学び」と「未来」を接続する戦略という観点から、総長の仕事の意味を掘り下げてみたい。

まず総長が重視するべきテーマの一つは、大学が提供する教育が“社会の変化”に遅れないようにすることである。社会は、技術革新や産業構造の転換だけでなく、人口動態、価値観の多様化、環境制約、国際的なリスクなど、複数の要因が重なって急速に姿を変える。そのとき学生の学びは、知識を増やすことだけでなく、変化に対応する力――問いを立て、情報を検証し、他者と協働しながら意思決定できる力――を育てる必要がある。総長がこの点に踏み込む場合、カリキュラムの改訂を単発の改革で終わらせず、教育の運用そのものを「学修成果(学生が何を身につけたか)」で点検し、必要に応じて改善する仕組みとして設計することが重要になる。授業の内容はもちろん、評価の方法、学修支援の設計、キャリア形成の支援、研究と教育の往還などが連動して初めて、学生の学びは社会の変化に耐えるものになっていく。

次に、総長の視点が生む効果が大きいのは、学内の資源を“学びの体験”として編み直す作業である。大学には、教員の研究知、専門科目の体系、図書館や学修環境、学生の多様な背景、そして国際交流や地域のネットワークなど、個別には強い資産が存在する。しかしそれらは、放っておけば縦割りに陥りやすく、「学生にとって統合的な学びの経験」へと姿を変えにくい。総長が主導する場合、教育改革は単に新しい科目を増やす話ではなく、学びの道筋を“ストーリー”として組み立て直すことになる。たとえば、研究室での学びと学部教育を連続させる、地域課題を題材にした学修を専門教育へ橋渡しする、国際交流を単なるイベントで終わらせず語学力だけでなく思考様式の違いに触れる学修へ発展させる、といった具合に、学生の学びが実感をともなって深まる設計が重視される。総長はこうした全体設計を見取り図として提示し、部局や教職員が同じ方向に動けるようにする。

さらに重要なのが、総長が「大学の公共性」をどのように具体化するかという観点である。大学は、個人の技能を高める場所であるだけでなく、社会に知的基盤や制度設計の知恵を提供する公共の機関でもある。立命館大学が持つ理念のようなものがあるとして、それを日常の教育や研究の実装へ落とし込むとき、総長は抽象的な理念を“行動の優先順位”に変える必要がある。どの課題を教育の題材として扱うのか、どのように地域や市民と対話するのか、研究成果をどのように社会へ還元するのか、学生にどんな姿勢や倫理観を育てるのか。これらが噛み合うとき、大学の学びは「就職のため」「単位を取るため」といった短い目的に還元されず、社会に参加するための力として形成されていく。総長が公共性を具体化することは、学生にとっても教職員にとっても、大学の存在意義を日々の判断にまで落とし込む意味を持つ。

加えて、国際化の扱いも総長の統合力が問われる領域である。国際化は、留学制度の充実や外国人教員の増加といった分かりやすい施策だけでは十分ではない。真の国際化とは、学生が異なる文化・価値観・学術的アプローチに触れ、それを自分の学びの中で再構成できるようになることだ。そのために必要なのは、授業言語の工夫だけでなく、学修サポート、奨学金制度、学生同士の交流設計、そして教員側の教育設計能力の支援である。総長は、国際交流を“外向きの活動”で止めず、学生の学修成果として成果を捉え直すことで、国際化を大学全体の教育の質向上につなげることができる。

また、研究の位置づけも「学び」と「未来」をつなぐ要である。研究は大学の根幹であると同時に、学生の学びにも深く関わる。研究成果が授業に還流し、学生が研究の方法論――問いの立て方、データの扱い方、議論の組み立て方――を体験できると、学びは単なる知識の受け取りから能動的な探究へと変わる。総長は、研究の推進と教育の高度化を別々に考えず、研究環境が教育の質を押し上げるような制度設計を行うことで、学生が“未来をつくる側”に回る入口を整えることができる。

そして最後に、総長のテーマとして欠かせないのがガバナンスである。どれだけ立派な方針を掲げても、意思決定のプロセスが複雑で遅いままでは実装が進まない。逆に、透明性や説明責任が不足していても、学内の納得感が生まれず改革は定着しない。総長が担うのは、理念を掲げることだけでなく、その理念を実行可能な形に落とし込み、各部局の動きを整え、進捗を点検しながら軌道修正することだと言える。教育改革、財政運営、人的配置、施設・ICT環境の整備、学生支援の体制など、大学運営のあらゆる要素が、最終的には学生の学びに影響する。総長はその“見えにくい接続”を作り、大学が学びの質を継続的に改善できる状態をつくる。

立命館大学総長という存在を考えるとき、「大学をどう良くするか」という問いは、教育の中身だけではなく、社会との関係、学生の体験、研究と教育の往還、国際化の実効性、そして運営の仕組みへと広がっていく。学びと未来を接続する戦略とは、まさにその広がりを束ね、大学全体の推進力として形にすることにほかならない。総長がどのようにテーマを設定し、どのように実装へ落とし込み、どのように成果を検証するのか――その視点に注目することは、大学の将来像を理解するうえで非常に面白い切り口になるだろう。

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